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7665日の物語 21

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小説
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『押忍!おはようございます!』これはご商売などをされているには常識だ

と思うが、「その日が始まる・その日初めて顔を合わせる」という意味で挨

拶は昼でも夜でも「おはようございます」なのだ。トラックが師匠の家のか

ら走り去っていったところだった。

『おう、来たか!ちょっとこっち来いや!』

師匠の言葉に

『押忍!!失礼します!!』と答えて靴を揃えて家にあがった。

声のする方に進んでいくと和室の奥に仏壇があり、師匠が座っていた。

『昨日風呂で話した、茜の兄貴だ。手合わせてやってくれ。ケジメなん

でな・・・』茜さんのお兄さん。。。その言葉だけが僕を正座させた。

座布団の前に正座し一礼して『失礼します』と一歩前に進む。

火のついた蝋燭にお線香を翳し、御鈴を静かに鳴らしてそっと立てて

手を合わせた。

(初めまして。ご縁がありましてご挨拶申し上げます。師匠からお兄さんの

お話は伺いました。若くしてさぞご無念の事と思います。これから道場に

通わせていただきます。どうぞよろしくお願いします。)

心の中でそう呟いて、ゆっくりとお辞儀をし、頭を挙げた。

『ありがとうな、あいつも喜んでいるよ。これで心配なくあっちに行ける

だろ(笑)』師匠は笑顔でそう言った。

僕は黙って深くお辞儀をした。その時である。

『挨拶終わった?こっちだよー!上がってきてー!』

2階からお母様の声が聞こえた。2階に上がっていくと1部屋だけ扉の

空いている部屋があり、ゴソゴソという音と女性の声が聞こえた。

「失礼しまーす・・・」と恐る恐る入るとお母様と茜さんがベッドに水

色の綺麗なシーツを張っていた。およそ6畳ほどの部屋で大きな窓があり、

青い空と白い雲、そして電線とそこに止まっている雀が見えた。

『風間君、まだ敷布団と掛布団のシーツ付けるから手伝って』

『はい!!』

僕は言われるがまま手伝った。シーツを付け、窓ガラスを水拭きしたあと

新聞紙で綺麗にふき取り、最後に掃除機をかけた。

『はい、終わり!!』

お母様の掛け声と同時になぜか僕はその場に正座した。

空手家が正座するのは珍しい事では無いが、なぜだか判らないが

正座したくなったのだ。その前にお母様と茜さんが正座し、

師匠も上がってきて正座された。奥様からの合図を受け師匠が話し始めた。

『茜の兄貴の部屋だった。ずっと触れなくてな。。。メダルとかトロフィー

とかそのまんま、なんかあいつが帰って来た時に寂しくない様にと思って

よぅ。。』師匠が涙ぐんでいる。。お母様も茜さんも泣いていた。

『でもよ龍二、今日からお前の部屋だ。これからお前は家族だ。同じ釜の飯

を食い、同じ湯に浸かり、まさに寝食を共にする。もちろん稽古も一緒だ。

お前はもう孤児の1人じゃあねぇ。「行ってきます」とここから学校行って

「ただいま」とここに帰ってくる。学校代払う為に新聞配達しなくていい

様に話付けてきた。(・・・そういうことだったのか)

俺も家族が増えてて嬉しいよ。竜二が帰って来たみたいでな。

いけねぇ、紛らわしいよな。昨日話した茜の兄貴な、(竜二)ってんだ。

おめえさんと同じ名前。字はおめえの方が立派だけどな。齢は竜二よりも

おめえのほうが下だけどよ、ちょっとあいつが若返った感じかな(笑)

まあ、そんなこんなでよろしく頼むわ!!』

状況は判った。僕の住む場所がもう施設ではなく、師匠の家の一室に

なった。。。

僕は言葉ではなく嗚咽と共に涙が止めどなく溢れて、言葉が出なかった。

親を亡くした時もこんなに泣かなかった。もう泣く事なんて無いだろうと

思っていた、お礼を言わなきゃいけないのに涙が止まらない。。。。

周りの状況なんか判らないほど正座したまま下を向いてひたすら堪えよう

にも止まらない涙を膝の上に落としていた。正面に誰か座って僕を優しく

抱きしめた。柔らかくて温かい。身体は僕より小さいのになんて大きな感覚

なんだろう。。

お母様だ。

『りゅうじ、おかえり。。』

泣きながらこう言われた。この「りゅうじ」が「竜二」なのか「龍二」

なんて考える余裕もなく、僕は

『ただいま。。。』

と口にすると再び泣き崩れた。家族全員泣いていた。師匠も、お母様も、

茜さんも、みんな泣いていた。この時初めて仏壇の前で師匠が口にした

「ケジメ」という言葉の意味が分かった。

『おい、茜。』師匠の呼びかけに反応し、茜さんが階段を降りて行った。

まだ僕の涙は止まらない。彼女は僕の靴を持ってきて紐をほどき始めた。

そして新しい真っ白なスニーカーに赤い紐を両足分通した。

『道着はお父さんから、靴はお母さんから、私は紐だけだけど。。。

よかったら履いてください。』

お母様が僕からそっと離れて茜さんの傍に行くように誘導した。両手で一足

づつ受け取り、僕はまたしてもあふれる涙をこらえきれずに泣いた。今度は

茜さんが優しく僕を抱きしめて言った。

『おかえり、風間君!!』

僕が落ち着いてから、師匠とお母様が身元引受人として署名捺印した用紙を

持って一緒に施設に行ってくれた。風呂に入り夕食を食べ、僕は部屋に入っ

てまっさらなシーツのベッドに横たわって天井を見つめながら考えた。

自分だけの一人部屋なんて初めてである。

「6畳ってこんなに広いんだ。。。」

こんな時昔の両親との事を思い出しそうなものだが、不思議とそれは全くな

く、今日の出来事を思い考えた。学校を休んで家族三人で亡くなられた竜二

さんのお部屋を僕が帰る場所に変えていてくれたのだ、いろんな思いがあっ

ただろう。思い出話もあっただろう、寂しくなって手を止めて涙した瞬間も

あっただろう。

『なんかあいつが帰って来た時に寂しくない様にと思ってよぅ。。』

と師匠が言っていた。みんなそういう気持ちで触れずにいた部屋を家族全員

で僕の為に変えてくれたのだ。家族全員でなければ変える事は許されな

かった、いや家族三人だからこそ、部屋を触る意味があったのだと。

そう考えた時、僕は居てもたってもいられなかった。

どうしても仏壇に、竜二さんにお礼が言いたかった。

スリッパを履き部屋の扉を開けると、自分の部屋から出てきたパジャマ姿の

茜さんがいた。

『どうしたの?辛いの?』

『いや、いろいろ考えてたらお兄さんにどうしてもお礼が言いたくて。

仏壇にお参りしてもいいかな』

『ありがとう、お兄ちゃん喜ぶよ!!一緒にいこ!』

茜さんに手を引かれて仏壇前まで行った、温かく優しい手だった。

礼をし、手を合わせた。また涙が流れた。

『もう!また泣いて・・・』

そう言いながら茜さんも泣いていた。両親の死からいろんなことがあった。

施設に移動、いじめ、暴力事件、総長・・・などなど。どれも小さなこと

だ。僕にとっては今ここで手を合わせている事、師匠のご自宅が僕の帰る

場所になった事、こんな大きな出来事が今日一日の内にあったのだ。

忘れてはいけない、彼女からシューズをプレゼントされた事、僕は明日の朝

からこのシューズを履いて登校するのだから。

『茜ちゃん、こんな幸せ・・・許されるのかな・・・』

いつの間にか僕は彼女の事を茜ちゃんと呼んでいた。

『うん、いいんだよ。これが人の普通の幸せなんだから。。。』

僕は涙を拭き姿勢を正し、仏壇に掲げられた竜二さんの遺影に向かって

『どうぞよろしくお願いします』

と深々と頭を下げた。

『 大変な勉強ともサヨナラ!!心理学に基づいたこの考え方 をマスターすれば、学校の成績 も確実に UP する ! その考え方とは』 のこたえ!!!|りゅうこころ ryukokoro|note
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