
意を決して傘を置き、集団登校する小学生の「なに?あの人・・・」
みたいな視線を痛く感じながら、僕はネットをどかして音のする袋を
探し漁った。半透明のゴミ袋の中に不自然に新聞紙ばかりが入っている
袋がいくつかあった。うっすら中身が見えるだけに、
「見られたくない物を捨てる時はこういう捨て方をする女性が多い」
というのはNHKニュースで読んだことがあった。女性の下着とか出てきたら
完全に変態で犯罪者じゃないか。。と考えながらゴソゴソしていると
『ちょっといい?君何してるの?怪しい人がいるって通報あったんだけど』
と警察の方。そりゃそうだ。雨の中スーツずぶ濡れで朝からごみ収集場所
をゴソゴソしているんだから。
『いや、音が聞こえるんですよ!だから探しているんです!』
『何の音?みんなそういう言い訳するんだよ。警察署で話聞くから』
『いや、本当ですって。そうじゃなきゃこんな雨の中探さないでしょ!』
『逆にさ、隠しておいたもの捨てられちゃって探してるとか?(笑)』
この言葉にさすがにちょっと頭にきた僕は、
『おい、黙って見とけ!何も出てこなかったら署でも何処でも行ってやる』
『君、公務執行妨害で現行犯逮捕するよ?』
『手も触れず悪態もついていない市民を公務執行妨害で現行犯逮捕だと?
行政府として市民からの通報に駆けつける職務姿勢は敬意を表するが、
さっきの(笑)は違うだろ!君こそ勉強不足ではないのかね?失礼だろ!』
と言い放ち、音の発信源をとうとう僕は見つけた。これがただの音の出る
オモチャだったらどうしよう。いや、でも何かしら出て来てくれれば疑いも
晴れるし、自分自身スッキリする。。。
そう自分に言い聞かせながら…警察官の覗き込む視線をうっとおしいな…
と思いながら硬く縛られた口の横を破いて中身を取り出すと、
新聞紙にくるまれて更にコンビニの袋に入れられた命がそこにはあった。

生まれて間もない状態で遺棄されたのだろう。3匹の内、2匹は死んでいた。
『ほら、あったじゃん!』と普通は出そうなものだが、僕の口から出た言葉
は、『近くの獣医さん、どこですか?! 早く!!』だった。
助けなきゃ!!それだけだった。
『獣医さん?振り向いたらあるけど・・・』そう警察官に言われ、急いで
消えそうな命を運び込むべく、開業前の診療所のインターホンを押した。
『すいません!診ていただきたいんです!!すいません!!』
何度もインターホンを押し、何度も声を掛けた。返答はない。。。
ここで汚名返上、名誉挽回とばかりにでてきた先程の警察官。

『朝早くからすいません、〇〇署の警察です。開けていただけますか?』
驚くことにものの数秒で出てきた。『はいはい、何かありましたか?』
簡単に経緯を説明し診ていただけることになりました。
ここで沸き起こる疑問点。。。
① なぜゴミと一緒に捨てられていたのか
② 探し始めてすぐのタイミングで誰が通報したのか
③ なぜ警察の問いかけにはすぐに反応したのか
④ そしてなぜ、すぐ裏が獣医さんだったのか
これらは一般市民である私は安易に触れない事にする。。。そして
その後どうなったのかも知る由もない。なぜならこの時応急処置だけ
してもらい、僕は別の知り合いの獣医さんを訪ねたからだ。
『おいおい、こいつぁ危ないぞ・・・?』
『そんな事は判ってる!!だからお前の所に来たんだろ!!』
『わーかった。やれるだけの事はやってみる。でもよ、ダメ元だぞ。
大丈夫でもそうでなくても電話するから、お前は取り敢えず会社行け。
クビになっても知らねーぞ?』
『そんな事は言われなくても解ってる!いいからこの子何とかしろよ!』
『おい、お前・・・うるせーよ。こっちは毎日救っては死なれの繰り返し
なんだよ。救いたいにきまってるだろうが!!いいから行け!!』
気が付けばさっき僕が警察官に抱いていた感情を彼にも抱かせていた。
僕は無力だ。。。。

二日後の深夜、彼から電話があった。
『お前、責任もって面倒みられるんだろうな?』
『当たり前だ。それよりどうだったんだ?』
『面倒みられるかどうか訊いてるのに悲しいお知らせする馬鹿がいるか?
面倒みるんならそれなりの手続きとか避妊とか、今の内から考えとかないと
いけないからよ』
『助けてくれてありがとう。。。』
素直に言葉に出た。
『おいおい、本当に大変なのはこれからだぞ?引き取りに来い。説明して
やるから。そして俺を寝かせろ。ポカリとサンドイッチ買ってきてくれ』

不眠不休で今にも消えそうな灯と闘って、彼は見事に火をともらせた。
僕はただただ感謝の念でいっぱいな気持ちでコンビニに走った。
迎えに行き受け取ると、確かに鼓動が聞こえる。。。

よかった、本当によかった。。。 でも本当の闘いはここからだった。