
そんな形で僕は空手から離れる事になった。引きはがされる事になった。
やっと見つけた自分の居場所。それが突然に奪われた。
自分の行いによって破門になったのだが、「悪漢から女性を守った結果」
なのだから、『良い行いをしたのになぜ!!!』という怒りが僕を歪んだ
正義に向かわせた。
僕がぶちのめした彼らが退院した後に、《 White angel 》という

全く非公認の団体をつくり、「シンナー吸引の撲滅」を図った。
僕は高校生になっていた。仲間たちや後輩達・他の団体にまでそれらを徹底
させるべく、力を行使した。
他にも「単車に乗るときは必ずヘルメット着用」や「先輩に対する挨拶の
徹底」、「町の清掃活動」など、一銭の稼ぎにもならない事を僕にやられた
ヤツらを筆頭にやらせた。もちろん自分が筆頭としてまとめていた。
こう書けば随分と殊勝な心掛けで行動しているように聞こえるが、
周囲の目には「暴力事件を起こした少年が新たに悪い奴らと徒党を
組んで何かしている」と写っていた。「シンナー吸引の撲滅」は一般人
からすれば関係ない事だし、「単車に乗るときは必ずヘルメット着用」
だってウルサイ単車が走っていることに変わりはない。
「先輩に対する挨拶の徹底」もおいおい、ヤクザ気取りかよ・・・と

写り、「町の清掃活動」も危なそうなヤツが街をうろうろしていて迷惑。
清掃活動と言いながら、縄張りを主張しているのではないか。だって
リーダーはあの暴力少年だ! と方々で言われた。
東大ポポロ事件のような大規模な学生運動ではない。たかだかちょっと
ひねくれた高校生が正義感を振りかざしているだけの話である。
やっている事は暴力少年が不良少年達のリーダーとして君臨した。
ただそれだけである。それこそ暴走族のリーダーそのものだ。
自らも単車に乗って救急車の為に道を開けさせたり、タカリやイジメの
撲滅活動など、町の治安維持に活躍していると本気で思い込んでいた。
やっている事は自己満足ではた迷惑な行為である。爆音を立てて走り
どんどん膨れ上がる組織の頭として君臨し、絶対的な権力を行使し、
自らを正当化して。。。まったく、あの頃の自分をぶん殴ってやりたい。
転機が訪れたのは「公園で女性が襲われている!」という情報が舎弟から
入った時だ。『絶対に許せねぇ!』と単車を飛ばし、公園についてみると、
ぼろ雑巾の様にされた舎弟がいた。『おい、誰にやられたんだ!!』

『あ・・・アイツでふ・・』前歯が折られ左顎が砕けているようだった。
指さす方を睨みつけると長めのポニーテールをしてジャージ姿の女性。
『お前ふざけるな!誰にやられたんだってきいてんだよこの野郎!!』
『総長、だからあの女でふ・・』いつしか僕は総長と呼ばれていた。
『おい、こいつがあんたに何かしたのか?』
『いや、バイクがうるさかったからぶっとばした(笑)』
『やられたことは水に流す。俺は女・子供には手を挙げないんでな』
本気で言った。女性や子供に暴力をふるう男は最低だという自分ルール
がある。『そ、、そんな、、総長、、、酷いでふ・・・・』舎弟の言葉に
『うるせえよ。女の子にボコられやがって!White angelの面汚しが!!』
そう言い放った刹那、すごい殺気と共に回し蹴りが飛んできた。

腐っても武道家の有段者だ。これだけの殺気で蹴り込まれたら気配で判る。
咄嗟に身体が反応した。顔面に向かって蹴り込まれた脚を振り返りざまに
僕は右腕で受けた。内受けという空手の守りの型だ。
『あんたねぇ!何が面汚しだよ!自分は何もしないくせに!総長?
わらわせるなっての(笑)臆病者が女・子供に手は挙げない?
今あげてるその手は何だよ?挙げないんだったら大人しく蹴られとけ!!』
この女性の言うとおりだ。咄嗟とはいえ僕は自分ルールを破ってしまった。
空手は「受け」も武器になる。全身凶器なのだ。
『すまなかった、君の言うとおりだ。今度は受けない、蹴ってこい』
言うが早いか、彼女の足は僕の頭の上を通過した。僕は180㎝、彼女は
見たところ165㎝くらいだろうか。その身長差で僕の頭の上を超えたのだ。
『あんたみたいな腑抜けた男を蹴ったら、脚が腐るわ!ほら、土下座して
謝ったら許してやってもいいけど?(笑)』 ・・・僕は土下座した。
『すいませんでした。コイツを許してやってください。。。』
そう言ったところで思いっきり顔面を蹴り上げられた。鼻の骨が折れたのが
わかった。『ふざけんじゃないよ!!コイツを許す許さないじゃなくて、

アンタ達、臆病者の集まりを許さないって言ってるの!!!』
『・・・なんだと?』 自分は正義だと思っていたのでこの言葉には黙って
いられなかった。
『おい、今の言葉取り消せ!』
『嫌だね!子分がやられて土下座して女に謝るような情けない臆病者が!』
『俺の事は何を言っても構わんがこいつらの事は悪く言うな。取り消せ!』
『笑える!毎晩爆音立てて正義のヒーロー気取ってると思ったら、僕が俺に
なったじゃん!なあに?本性現したってわけ?』
『いいから取り消せ!!』
『嫌だね!!もう2.3発蹴ってやろうか?』
『俺を蹴る分には構わん!』
『あんた蹴ったって面白くないじゃん(笑)そっちの倒れてるヤツを
蹴ってやるよ(笑)』 『馬鹿!!やめろ!!』
・・・遅かった。舎弟は顔面から血を噴き出して仰向けに倒れた。
『おい、お前どこの者だ! 流派は何だ!!』
『なんで臆病者のあんたにそんな事言わなきゃならないのさ(笑)』
『空手家なら空手でケリをつける。どこの道場だって聞いてるんだ!』
